伊藤毅 KASA Sustainability
ヘルシーで栄養価の高い十分な食料は、人間の身体・精神の健康と生物圏の持続可能性に密接にかかわっています。しかし、現在のフードシステムには目標達成に必要なものが備わっ
ているのでしょうか。現状では目標を達成することはできていません。2020年、世界の約3人に1人が十分な食料を入手することができませんでした。十分な食事にありつけない人の数が、20億5千万人から23億7千万人へと、年間で3億2千万人増加したことになります(FAO 2021)。農業・林業・その他の土地利用による温室効果ガス排出量は、全体の約4分の1を占めています。(IPCC 2022)。現在のフードシステムは食料不足を所与の前提とし、単に量だけに着目してきました。それ故、食料増産こそが世界の食料安全保障の重要な解決策だと考えられてきました。食料増産の一方で、栄養面の改善はなされず、世界の肥満人口は1980年より2倍以上に増加しています(Gordon et al. 2017)。さらに、現在のフードシステムは農作物多様性を喪失させ、食生活を均質化してきました。これまで人類は約6千種類の植物を摂取してきましたが、現在私たちが食べているのはたったの9種類です。そのうち米、小麦、トウモロコシが全カロリーの50%を占めています(Saladino 2021)。
すべての人がヘルシーで栄養価の高い十分な食料を入手できるようにするためには、不足、効率性、単作から、関係、質、多様性へと見方を変える必要があります。
つまり、生業としての農業は生物多様性の原則を尊重し、人と自然は別々に存在するものではなく、相互に依存して共生していることを認めなければならないのです。農業は、食料および家畜の生産に適した形にランドスケープを変えてゆくとともに、分断されたものではなく一つの社会・生態関係を形成するように、社会関係を確立し、生産者と自然を(再)結合させます。そのような社会・生態関係は、往々にして互恵的で弾力的です。生産者は環境資源の恩恵を受けつつ、土、水、植物、家畜やその他生物の世話を行うことで、生物多様性を生み出していきます。このように、農業によって生産者がローカルな生態系の中に位置付けられることにより、農業は社会と生態系の相互に依存した関係性を深化させるのです。現在のフードシステムが依拠する工業型農業は自然を標準化・単純化し、生産者を自然やコミュニティから分離し、生態系の公益的機能を当然視してきました。世界食品安全の日、すべての人たちが健康的で栄養価の高い十分な食料を確保ためには社会及び生態の多様性と相互依存的な関係が重要な指針であると、私たちは認識するでしょう。
*こちらの記事は、2022年6月8日の記事"Centering Social-Ecological Diversity and Interdependence in Our Food Systems"の日本語訳になります。
This reflection was published by SACRU (Strategic Alliance of Catholic Research Universities) website as part of observing World Food Safety Day 2022.
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References
FAO. 2021. The State of Food Security and Nutrition in the World. FAO, Rome.
Gordon, J. et al. 2017. Rewiring Food Systems to Enhance Human Health and Biosphere Stewardship.Environmental Research Letters 12, 1-12.
IPCC. 2022. Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Working Group III contribution to the Sixth Assessment Report.
Saladino, D. 2021. Eating to Extinction. Jonathan Cape, London.
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